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米FDA、先天性血栓性血小板減少性紫斑病の治療薬Adzynmaを承認

 米食品医薬品局(FDA)は11月9日、先天性血栓性血小板減少性紫斑病(congenital thrombotic thrombocytopenic purpura;cTTP)の成人および小児患者における予防的酵素補充療法(enzyme replacement therapy;ERT)またはオンデマンドのERTを適応とした初の遺伝子組換えADAMTS13タンパク質としてAdzynma(遺伝子組換えADAMTS13-krhn)を承認した。 cTTPは非常にまれな遺伝性の血液凝固障害で、米国での罹患者数は1,000人に満たないと推定されている。cTTPでは、ADAMTS13遺伝子の変異により血液凝固を制御する酵素(ADAMTS13)の活性が著しく低下もしくは失活し、これにより全身の微小血管に血栓が生じる。cTTPの症状は重度の出血、脳卒中、主要な臓器へのダメージなどで、未治療のまま放置すると致死的となり得る。cTTPの治療では通常、ADAMTS13の不足を補うために新鮮凍結血漿を輸注して発症を予防する予防的血漿療法が行われる。 Adzynmaは、症状を予防するためのERTの場合には2週間に1回、急性イベントが生じている患者に対するオンデマンドERTの場合には1日1回投与される。 Adzynmaの安全性と有効性は、cTTP患者46人を対象にしたランダム化非盲検クロスオーバー第3相試験において示された。対象者は、6カ月にわたってAdzynmaまたは血漿療法による治療を受ける群にランダムに割り付けられ(期間1)、その後の6カ月(7〜12カ月目、期間2)は期間1とは逆の治療を受け、その後、35人が6カ月にわたってAdzynmaによる治療を受けた(期間3)。その結果、TTPイベントとTTP症状の発生率、および追加投与の頻度に基づいてAdzynmaの予防的ERTにおける有効性が確認された。一方、オンデマンドERTにおけるAdzynmaの有効性は、研究期間中に予防的ERTおよびオンデマンドERTを受けたコホート全体に生じた急性および亜急性のTTPイベント発生率に基づいて評価された。その結果、全ての急性および亜急性TTPイベントは、Adzynmaまたは血漿ベースの治療によって治癒したことが確認された。 Adzynma投与により生じた主な副作用は、頭痛、下痢、片頭痛、腹痛、吐き気、上気道感染、めまい、嘔吐などである。試験期間中に、Adzynma投与に伴うアレルギー反応などの有害事象は認められなかった。 FDA生物製品評価研究センター(CBER)長のPeter Marks氏は、「FDAは、希少疾患患者に対する安全で効果的な治療法の開発と承認を促進するために尽力し続けている。cTTPは治療せずにおくと死に至る病だ。今回の承認は、この命を脅かす疾患に罹患している患者が待ち望んでいた治療選択肢を提供したという点で、大いなる前進となるものだ」と述べている。 Adzynmaの承認は、武田薬品工業株式会社に対して付与された。

2.

エフガルチギモド、一次性免疫性血小板減少症に有効/Lancet

 一次性免疫性血小板減少症(特発性血小板減少性紫斑病)は後天性の自己免疫疾患で、血小板抗原を標的とする自己抗体がその一部を媒介しており、ほかの疾患との明確な関連のない孤立性血小板減少症(血小板数<100×109/L)を特徴とする。患者は、出血イベント(まれに生命を脅かす)や疲労を呈し、QOLの低下を招く場合もある。米国・ジョージタウン大学のCatherine M. Broome氏らは「ADVANCE IV試験」において、ファーストインクラスの抗胎児性Fc受容体(FcRn)抗体フラグメント製剤エフガルチギモドが、プラセボと比較して、本症の慢性期の患者における血小板数の持続的臨床効果について有意に優れ、忍容性も良好で有害事象の多くは軽度~中等度であることを示した。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2023年9月28日号に掲載された。アジア、欧米の71施設の無作為化プラセボ対照第III相試験 ADVANCE IV試験は、日本を含むアジア、欧州、北米の71施設が参加した24週間の二重盲検無作為化プラセボ対照第III相試験であり、2019年12月~2022年2月の期間に患者のスクリーニングを行った(argenxの助成を受けた)。 対象は、年齢18歳以上、平均血小板数が30×109/L未満で、過去に少なくとも1回の免疫性血小板減少症の治療が奏効し、ベースラインで同時併用療法を受けているか、過去に少なくとも2回の免疫性血小板減少症の治療を受けている、慢性(罹患期間>12ヵ月)または持続性(同3~12ヵ月)の一次性免疫性血小板減少症の患者であった。 これらの患者を、エフガルチギモド(10mg/kg)またはプラセボを静脈内投与する群に2対1の割合で無作為に割り付けた。最初の4週間は週1回の投与を行い、その後は担当医の裁量で、週1回投与を継続するか、血小板数≧100×109/Lの場合は2週に1回の投与に変更することが可能であった。 主要エンドポイントは、慢性の免疫性血小板減少症の集団における血小板数の持続的臨床効果(直近6週間のうち少なくとも4週で血小板数が≧50×109/L)とした。 131例(年齢中央値47.0歳[四分位範囲[IQR]:18~85]、女性54%)を登録し、86例をエフガルチギモド群に、45例をプラセボ群に割り付けた。これらの患者は、平均罹患期間が10.6年で、67%(88/131例)が少なくとも3回の免疫性血小板減少症の治療歴のある長期罹患者であった。131例のうち慢性の患者は118例(エフガルチギモド群78例、プラセボ群40例)だった。慢性だけでなく、全体でも有効 主要エンドポイントを達成した慢性期の患者の割合は、プラセボ群が5%(2/40例)であったのに対し、エフガルチギモド群は22%(17/78例)と有意に高かった(補正後群間差:16%、95%信頼区間[CI]:2.6~26.4、p=0.032)。 24週の治療期間のうち病勢コントロール(血小板数≧50×109/L)を達成した週数の中央値は、プラセボ群が0.0週(IQR:0.0~1.0)であったのに比べ、エフガルチギモド群は2.0週(0.0~11.0)であり有意に優れた(p=0.0009)。 全131例における主要エンドポイントを達成した患者の割合も、エフガルチギモド群で優れた(26% vs.7%、補正後群間差:19%、95%CI:5.7~29.6、p=0.011)。 安全性解析は全131例で行った。エフガルチギモド群は忍容性も良好で、試験薬投与中に発現した有害事象(TEAE)の重症度は多くが軽度~中等度であった。重篤なTEAEは、エフガルチギモド群が8%、プラセボ群は16%で、治療関連TEAEはそれぞれ17%、22%で発現した。注目すべきTEAEのうち、両群で最も頻度が高かったのは、頭痛(エフガルチギモド群16%、プラセボ群13%)、血尿(16%、16%)、点状出血(15%、27%)であった。 著者は、「本研究の結果は、一次性免疫性血小板減少症の慢性期の患者であっても、本症の病態生理においてはIgGが重要であることを示しており、とくに治療困難な患者の治療選択肢としてのIgG低下療法の適用可能性についての理解を深めるものである」とし、「このデータは、胎児性FcRnのIgG recyclingの阻害による病原性IgG抗体の減少が、複数の治療によっても病勢がコントロールされていない一次性免疫性血小板減少症の患者の治療において有効なアプローチとなることを示唆する」と指摘している。

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ファイザーとモデルナ、高齢者により安全なワクチンはどっち?

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)mRNAワクチンの安全性と有効性は、モデルナ社製ワクチンでもファイザー社製ワクチンでも高いとされている。しかし、高齢者におけるワクチン接種後の有害事象の発生という点では、軍配はモデルナ社製ワクチンに上がるとする研究結果が報告された。米ブラウン大学公衆衛生大学院、老年学・ヘルスケア研究センターのDaniel Harris氏らが米国立老化研究所の資金提供を受けて実施した研究で、詳細は、「JAMA Network Open」に8月2日掲載された。 Harris氏は、「COVID-19にまつわる有害事象の発生リスクは、新型コロナウイルスに自然感染した場合の方が、mRNAワクチンを接種した場合よりもはるかに高い。しかし、世界人口の70%以上が何らかのCOVID-19ワクチンを接種した今となっては、ワクチンの供給についてさほど心配する必要はない」と説明する。そして、現時点で必要とされているのは、どのワクチンを接種するかを決める際の判断材料となる、ワクチンの安全性と有効性に関する詳細な情報だと強調する。 今回の研究でHarris氏らは、mRNAワクチンの1回目接種を終えた、66歳以上の出来高払い方式のメディケア受益者638万8,196人(平均年齢76.3歳、女性59.4%)を対象に、モデルナ社製ワクチンとファイザー社製ワクチン接種後の有害事象の発生について比較を行った。対象者の38.1%はプレフレイル(フレイル前段階)、6.0%はフレイルと判定されていた。また、339万704人がファイザー社製ワクチンを、299万7,492人がモデルナ社製ワクチンを接種していた。有害事象としては、深部静脈血栓症、肺塞栓症、血小板減少性紫斑病、ギラン・バレー症候群、急性心筋梗塞など12種類について検討した。 検討した12種類の有害事象の発生率は全て1%以下であり、最も高かったのは深部静脈血栓症の0.27%と肺塞栓症の0.23%であった。あらゆる因子を調整したモデルを用いた解析からは、モデルナ社製ワクチンの方が肺塞栓症リスクが4%低く、また、血栓塞栓症の複合(急性心筋梗塞、深部静脈血栓症、出血性脳卒中、非出血性脳卒中、肺塞栓症)のリスクも2%低いことが示された。モデルナ社製ワクチンはさらに、COVID-19と診断されるリスクがファイザー社製ワクチンよりも14%低かった。ただし、このようなリスク低下は、フレイルと判定された人では6%にとどまっていた。 Harris氏は、「この研究結果は、公衆衛生の専門家が、フレイルのある人も含めた高齢者にとって、どのmRNAワクチンが望ましいかを検討する上で役に立つ」と話す。同氏はまた、健康に慢性的な問題を抱えていることの多い高齢者は、臨床試験から除外されることが多いことを指摘し、「介護施設に入居している高齢者ではCOVID-19の重症化リスクが高いことを考えると、高齢者でのワクチンの安全性と有効性を調べることは極めて重要である」としている。 では、なぜモデルナ社製ワクチンの方が、わずかではあるが有害事象の発生リスクが低かったのか。Harris氏は、「安全性と有効性は相互に関連している。モデルナ社製ワクチンを接種した患者の方が、ファイザー社製ワクチンを接種した人よりも肺塞栓症やその他の有害事象のリスクがわずかに低かったのは、モデルナ社製ワクチンの方がCOVID-19罹患リスクを低減させる効果が高いことに起因する可能性がある」と話している。 ただし、この研究では、有害事象の発生リスクの違いが、安全性または有効性のどちらに起因するのかについて、結論付けることはできなかった。また、本研究で検討されたのはmRNAワクチンの初回投与後についてだけであり、研究グループは、さらなる研究が必要だとしている。

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TTP診療ガイド2023改訂のポイント~Minds方式の診療ガイドラインを視野に

「血液凝固異常症等に関する研究班」TTPグループの専門家によるコンセンサスとして2017年に作成され、2020年に部分改訂された、血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)の診療ガイドライン、『血栓性血小板減少性紫斑病診療ガイド2023』が7月に公開された。2023年版では、Minds方式の診療ガイドラインを視野に、リツキシマブに対してclinical question(CQ)が設定され、エビデンスや推奨が掲載された。主な改訂ポイント・リツキシマブの推奨内容の追加・変更とCQの掲載・カプラシズマブが後天性TTP治療の第一選択に・抗血小板薬、FFP輸注に関する記述を追加・FrenchスコアとPLASMICスコアに関する記述を追加・増悪因子に関する記述を追加リツキシマブを後天性TTPの急性期、寛解期にも推奨 難治例を中心に広く使用されているリツキシマブであるが、2023年版では、後天性TTPの急性期に投与を考慮しても良い(保険適用外、推奨度2B)としている。ただし、とくに初回投与時のインフュージョンリアクションに注意が必要としている。また、難治例、早期再発例(推奨度1B)や寛解期(保険適用外)でのリツキシマブ使用についての記載も追加された。再発・難治例では、治療の効果と安全性が確認されており、国内で保険適用もあることから推奨するとし、後天性TTPの寛解期では、ADAMTS13活性が10%未満に著減した場合、再発予防にリツキシマブの投与を検討しても良いとした。リツキシマブの使用に関するCQを掲載 上述のとおり、2023年版ではリツキシマブの使用に関する記載が大幅に追加されたが、さらに巻末には、リツキシマブの急性期、難治例・早期再発例、寛解期における使用に関するCQも掲載されている。これらのCQに対するAnswerおよび解説を作成するに当たり、エビデンス収集のため、2022年1月7日時点で過去10年間にPubMedに登録されたTTPに関するリツキシマブの英語論文の精査が行われた。各CQに対する解説では、国際血栓止血学会TTPガイドライン2020などのガイドラインや臨床試験、システマティックレビュー、症例報告の有効性に関する報告を詳細に紹介したうえで、各CQに対し以下のAnswerを記載している。・後天性TTPの急性期に、リツキシマブ投与を考慮しても良い(推奨度2B)(保険適用外)・後天性TTPの再発・難治例にリツキシマブ投与を推奨する(推奨度1B)・後天性TTPの寛解期にADAMTS13活性が10%未満に著減した場合、再発予防にリツキシマブの投与を検討しても良い(推奨度2B)(保険適用外)カプラシズマブが後天性TTP治療の第一選択として記載 2023年版では、カプラシズマブが2022年9月に日本でも販売承認されたことが報告された。本ガイドでは、カプラシズマブを推奨度1Aの後天性TTP急性期の治療としている。投与30日以降もADAMTS13活性が10%を超えない場合は、追加で28日間継続可能であること、ADAMTS13活性著減を確認する前に開始可能であるが、活性が10%以上でTTPが否定された場合は速やかに中止すべきであることが述べられている。その他の治療に関する改訂ポイント(抗血小板薬、FFP輸注) 急性期の治療として用いられる抗血小板薬(推奨度2B)については、血小板とvon Willebrand因子(VWF)を中心とした血小板血栓によってTTPが発症することからTTP治療に有効である可能性があるとしたが、急性期での使用により出血症状が認められたとの報告、チクロピジンやクロピドグレルの使用はTTP患者では避けられていること、アスピリンとカプラシズマブの併用は出血症状を助長する可能性があり避けるべきである等の内容が加えられた。先天性TTPの治療へのFFP輸注の使用(推奨度1B)の記載についても追加がなされた。国際血栓止血学会のTTPガイドラィンで推奨する用量(10~15mL/kg、1~3週ごと)は日本人には量が多く困難な場合があることや、長期的な臓器障害の予防に必要なFFPの量は現状では明らかではない等の内容が加えられた。TTPの診断に関する改訂ポイント ADAMTS13検査やインヒビター検査は結果が得られるまで時間がかかり、TTP治療の早期開始の妨げになっている。そこで、2023年版では、ADAMTS13活性著減の予想に用いられる、FrenchスコアとPLASMICスコアに関する記述が追加された。これら2つのスコアリングシステムについて、ADAMTS13活性著減を予測するが、血栓性微小血管症(TMA)が疑われる症例においてのみ用いられるべきことを明示した。増悪因子に関する記述を追加 2023年版では、TTP発作を誘発する因子についての項目が加えられた。増悪因子として、出生直後の動脈管の開存、ウイルス/細菌感染症、妊娠およびアルコール多飲などが知られており、妊娠期にはFFP定期輸注を行うことが、妊娠管理に不可欠と考えられるとした。

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心房細動の脳梗塞後、抗凝固療法開始は早いほうがよい?(解説:後藤信哉氏)

 心房細動症例の脳卒中リスクは洞調律例よりも高いとされる。しかし、脳梗塞急性期の抗凝固療法では梗塞巣からの出血が心配である。DOAC時代になって、ワルファリンの時代よりも抗凝固療法に対する心理的ハードルは低下した。心房細動があり、脳梗塞を経験した症例での早期(48時間以内)と晩期(6~7日後)のDOAC療法による30日以内の脳梗塞・全身性塞栓症・大出血・症候性頭蓋内出血の発現リスクをランダムに比較した。 本研究は、実臨床を反映したシンプルな仮説検証試験である。実臨床の中で、シンプルな仮説検証を繰り返しながら医療の質をシステム的に改善するアプローチとして価値のある研究である。 本研究はSwiss National Science Foundationなどによる助成研究である。日本でも公的資金により、CROなどを使用せずに、シンプルに仮説検証研究を安価に施行できるようになるとよいと思う。

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患者情報から治療期間を評価して、漫然投与薬の中止を提案【うまくいく!処方提案プラクティス】第54回

 今回は、長期服用薬の治療期間を疑問に思い、患者情報を収集し直して漫然投与となりがちな薬剤の必要性を再考した症例を紹介します。副作用などの問題がなくても、治療の適応があるのかどうかを定期的に考える機会は必要です。急性疾患で処方された薬剤がいつまで必要なのか、慢性疾患であれば処方時点と現在で治療内容が妥当であるのか否かを、薬剤師の視点で評価しましょう。患者情報85歳、女性(施設入居)基礎疾患アルツハイマー型認知症介護度要介護2服薬管理施設職員が管理処方内容1.カルバゾクロムスルホン酸ナトリウム錠30mg 3錠 分3 毎食後2.トラネキサム酸錠250mg 3錠 分3 毎食後3.五苓散エキス顆粒 3包 分3 毎食後4.クエン酸第一鉄ナトリウム錠50mg 3錠 分3 毎食後本症例のポイントこの患者さんは半年前の施設入居時から上記の処方薬を服用していました。処方監査を実施していた薬剤師が、採血結果もなく、病歴も認知症のみなのになぜ止血剤および鉄剤を飲んでいるのか不明であったため、基礎疾患や治療経過を収集する治療計画(Care plan)を立案しました。当然、出血既往があると予測はつきますし、そのための貧血治療と考えるのが妥当ですが、いつ・どこの・どの程度の出血なのか明確でないことに違和感がありました。担当薬剤師へ情報を引き継ぎ、担当薬剤師が施設訪問時に看護師と入居前に入院していた病院の看護サマリーと診療情報提供書を確認しました。すると、繰り返す転倒から慢性硬膜下血腫が生じ、1年前に穿頭血腫ドレナージ術を施行していたことがわかりました。術後の再出血予防および血腫サイズの縮小などを目的に現行の治療薬が処方され、クエン酸第一鉄もそのときの採血結果をもとに追加されていました。そこで現在の主治医が外科医であることから現行薬の必要性を相談することにしました。医師への相談と経過主治医に電話で、長期的に現行薬を服用していて服薬アドヒアランスは維持されていることを伝えたうえで、病歴の聴取、今後の脳外科受診などの予定について確認しました。また、今後の治療方針も確認しました。主治医は病歴を把握していたものの、現行薬を今後どうするかについては保留中だったそうで、前回の術後頭部CT画像の確認から現行薬の必要性はないだろうという返答がありました。また、貧血治療も採血予定(Hb、フェリチン、TIBC、MCVなど)を組んだので、そこで鉄剤の中止を検討するとのことでした。最後に医師より、長期服用薬の評価は緊急性がなければ後回しになってしまうことが多いので、こういうアシストはとても助かるとお礼がありました。患者さんは現在も施設で転倒もなく、出血イベントも起きずに生活しています。鉄剤もその後の採血結果で異常所見はなく、治療は終了となりました。薬が終了したことで本人の服薬負担も看護師の与薬負担も減らすことができました。このように、病歴確認と見直しを行い、漫然投与となりがちな薬剤について今一度治療の適応があるのかどうか考える機会は必要です。治療継続の必要可否について確認する薬剤師のアプローチも多剤併用を予防するポジティブアクションに繋がると実感しました。

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重症血小板減少症のCVC関連出血、輸血で予防可能か/NEJM

 重症血小板減少症の患者においては、中心静脈カテーテル(CVC)留置に関連する出血を防ぐための予防的な血小板輸血の必要性に疑問が提起されている。オランダ・アムステルダム大学医療センターのFloor L.F. van Baarle氏らは「PACER試験」においてこの問題を検証し、超音波ガイド下CVCの留置前に予防的な血小板輸血を行わない非輸血戦略は、行った場合と比較して、Grade2~4のカテーテル関連出血の発生は非劣性マージンを満たさず、出血イベントが多いことを示した。研究の詳細は、NEJM誌2023年5月25日号に掲載された。オランダ10病院の無作為化非劣性試験 PACER試験は、オランダの10ヵ所の病院が参加した無作為化対照比較非劣性試験であり、2016年2月~2022年3月の期間に患者の登録が行われた(オランダ保健研究開発機構[ZonMw]の助成を受けた)。 血液内科病棟または集中治療室で治療を受けている重症血小板減少症(血小板数:1万~5万/mm3)の患者を、超音波ガイド下CVC留置前に、予防的に1単位の血小板輸血を行う群、または血小板輸血を行わない群に無作為に割り付けた。 主要アウトカムはGrade2~4のカテーテル関連出血で、主な副次アウトカムはGrade3または4のカテーテル関連出血であった。非劣性マージンは、相対リスクの90%信頼区間(CI)の上限値3.5とされた。総費用は、1件当たりは安価だが、24時間では高額に 338例に施行された373件のCVC留置がper-protocol解析に含まれた。血小板輸血群はCVC留置188件(患者の年齢中央値58歳[四分位範囲[IQR]:47~65]、女性33.5%)、血小板非輸血群は185件(59歳[50~65]、37.8%)であった。 Grade2~4のカテーテル関連出血は、輸血群では188件中9件(4.8%)、非輸血群では185件中22件(11.9%)で発生した。両群間の絶対リスク差は7.1ポイント(90%CI:1.3~17.8)で、相対リスクは2.45(90%CI:1.27~4.70)であり、非輸血戦略の非劣性は示されなかった。 Grade3/4のカテーテル関連出血は、輸血群では188件中4件(2.1%)、非輸血群では185件中9件(4.9%)で発生した(相対リスク:2.43、95%CI:0.75~7.93)。 有害事象は全体で15件観察された。このうち13件が重度と判定され、いずれもGrade3のカテーテル関連出血であった(輸血群4件、非輸血群9件)。 血小板輸血と出血イベントに関連する総費用は非輸血群より輸血群で高く、カテーテル留置1件当たりの総費用は非輸血群で410ドル安価であった。一方、CVC留置後24時間の輸血費用は、非輸血群のほうが血小板輸血と出血関連の輸血の頻度が高かったため、高額であった。 著者は、「輸血後に血小板数が少ない患者にみられた高い出血リスクは、CVC関連出血の予防には十分な量の血小板(血小板輸血を含む)が重要との考え方を、さらに裏付けるものである」としている。

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麻疹・風疹の違いは?

麻疹・風疹の違いは?麻疹(はしか)風疹(3日はしか)原因ウイルス 麻疹ウイルス(Paramyxovirus科Morbillivirus属)風疹ウイルス(Togavirus科Rubivirus属)感染経路空気感染、飛沫感染、接触感染感染力が非常に強い飛沫感染感染力が強い(1人の感染者が12~17人感染させる)(1人の感染者が5~7人感染させる)潜伏期間10~12日間14~21日間症状発熱(38℃前後、発疹期は39.5℃以上)、上気道炎症状(せき、鼻みず、のどの痛み)、結膜炎症状(結膜充血、目やに、まぶしさ)、消化器症状(下痢、腹痛)、発疹、コプリック斑(口腔内の白色の小斑点)など発熱(約半数)、発疹、リンパ節の腫れが3つの特徴的な症状とされる関節炎が出る場合もある(成人の5~30%)麻疹より症状は軽く、無症状が15~30%注意が必要な合併症肺炎、脳炎、亜急性硬化性全脳炎(麻疹の二大死因は肺炎と脳炎)中耳炎、クループ症候群(喉頭炎、喉頭気管支炎など)、心筋炎など先天性風疹症候群(妊娠20週までの妊婦さんが感染すると、生まれた子が発症して、先天異常など、さまざまな症状があらわれる)血小板減少性紫斑病、急性脳炎分類5類感染症国立感染症研究所. 風疹とは(https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/430-rubella-intro.html)国立感染症研究所. 麻疹とは(https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/518-measles.html)より作成Copyright © 2023 CareNet,Inc. All rights reserved.麻疹・風疹の発生状況(2023年5月24日現在)麻疹風疹(例)(例)3,0003,0002,5002,5002,0002,0001,5001,5001,000165 18602,2981,0007445002,9415002791066126129102016 2017 2018 2019 2020 2021 2022 2023年101121552016 2017 2018 2019 2020 2021 2022 2023年国立感染症研究所. 感染症発生動向調査(IDWR):2023年5月24日現在(https://www.niid.go.jp/niid/ja/hassei/575-measles-doko.html)(https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ha/rubella.html)より作成Copyright © 2023 CareNet,Inc. All rights reserved.

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血小板無力症〔GT:Glanzmann thrombasthenia〕

1 疾患概要■ 定義血小板無力症(Glanzmann thrombasthenia:GT)は、1918年にGlanzmannにより初めて報告された1)一般的な遺伝性血小板障害(Inherited platelet disorders:IPD)であり、その中でも最もよく知られた先天性血小板機能異常症である。血小板インテグリンαIIbβ3(alphaIIbbeta3:いわゆる糖蛋白質[glycoprotein:GP]IIb/IIIaとして知られている)の量的欠損あるいは質的異常のため、血小板凝集機能の障害により主に中等度から重度の粘膜皮膚出血を伴う出血性疾患である。インテグリンαIIbβ3機能の喪失により、血小板はフィブリノーゲンや他の接着蛋白質と結合できなくなり、血小板による血栓形成不全、および多くの場合に血餅退縮が認められなくなる。 ■ 疫学血液凝固異常症全国調査では血液凝固VIII因子の欠乏症である血友病Aが男性出生児5,000人に約1人,また最も頻度が高いと推定される血漿蛋白であるvon Willebrand factor(VWF)の欠損症であるvon Willebrand病(VWD)については出生児1,000人に1人2、3)と報告される(出血症状を呈するのはその中の約1%と考えられている)。IPDは、これらの遺伝性出血性疾患の発症頻度に比べてさらに低くまれな疾患である。UK Haemophilia Centres Doctors Organisation(UKHCDO)に登録された報告2)では、VWDや血友病A・Bを含む凝固障害(87%)に比較して血小板数・血小板機能障害(8%)である。その8%のIPDの中ではGTは比較的頻度が高いが、明らかな出血症状を伴うことから診断が容易であるためと想定される(GT:5.4%、ベルナール・スーリエ症候群:3.7%、その他の血小板障害:90.1%)。凝固異常に比較して、IPDが疑われる症例ではその分子的な原因を臨床検査により正確に特定できないことも多く、その他の血小板障害(90.1%)としてひとくくりにされている。GTは、常染色体潜性(劣性)遺伝形式のために一般的にホモ接合体変異で発症し、ある血縁集団(民族)ではGTの発症頻度が高いことが知られている。遺伝子型が同一のGT症例でも臨床像が大きく異なり、遺伝子型と表現型の相関はない1、4)。血縁以外では複合ヘテロ接合によるものが主である。■ 病因(図1)図1 遺伝性血小板障害に関与する主要な血小板構造画像を拡大するインテグリンαIIbサブユニットをコードするITGA2B遺伝子やβ3サブユニットをコードするITGB3遺伝子の変異は、インテグリンαIIbβ3複合体の生合成や構造に影響を与え、GTを引き起こす。片方のサブユニットの欠落または不完全な構造のサブユニット生成により、成熟巨核球で変異サブユニットと残存する未使用の正常サブユニットの両方の破壊が誘導されるが、例外もありβ3がαvと結合して血小板に少量存在するαvβ3を形成する5)。わが国における血小板無力症では、欧米例とは異なりβ3の欠損例が少なく、αIIb遺伝子に異常が存在することが多くαIIbの著減例が多い。また、異なる家系であるが同一の遺伝子異常が比較的高率に存在することは単民族性に起因すると考えられている6)。このほかに、血小板活性化によりインテグリン活性化に関連した構造変化を促す「インサイドアウト」シグナル伝達や、主要なリガンドと結合したαIIbβ3がさらなる構造変化を起こして血小板形態変化や血餅退縮に不可欠な「アウトサイドイン」シグナル伝達経路を阻害する細胞内ドメインの変異体も存在する。細胞質および膜近位ドメインのまれな機能獲得型単一アレル変異体では、自発的に受容体の構造変化が促進される結果、巨大血小板性血小板減少症を引き起こす。「インサイドアウト」シグナルに重要な役割を果たすCalDAG-GEFI(Ca2+ and diacylglycerol-regulated guanine nucleotide exchange factor)[RASGRP2遺伝子]およびKindlin-3(FERMT3遺伝子)の遺伝子変異により、GT同様の臨床症状および血小板機能障害を発症する。この機能性蛋白質が関与する他の症候としては、CalDAG-GEFIは他の血球系、血管系、脳線条体に存在し、ハンチントン病との関連も指摘されており、Kindlin-3の遺伝子変異では、白血球接着不全III(leukocyte adhesion deficiency III:LAD-III)を引き起こす。LAD-III症候群は常染色体潜性(劣性)遺伝で、白血球減少、血小板機能不全、感染症の再発を特徴とする疾患である5)。■ 症状GTでは鼻出血や消化管出血など軽度から重度の粘膜皮膚出血が主症状であるが、外傷・出産・手術に関連した過剰出血なども認める。男女ともに罹患するが、とくに女性では月経や出産などにより明らかな出血症状を伴うことがある。実際、過多月経を訴える女性の50%がIPDと診断されており、さらにIPDの女性は排卵に関連した出血を起こすことがあり、子宮内膜症のリスクも高いとされている7)。■ 分類GTの分類では、インテグリンαIIbβ3の発現量により分類される。多くの症例が相当するI型では、ほとんどαIIbβ3が発現していないため、血小板凝集が欠如し血餅退縮もみられない。発現量は少ないがαIIbβ3が残存するII型では、血小板凝集は欠如するが血餅退縮は認める。また、非機能的なαIIbβ3を発現するまれなvariant GTなどがある1、5)。■ 予後GTは、消化管出血や血尿など重篤な出血症状を時折引き起こすことがあるが、慎重な経過観察と適切な支持療法により予後は良好である。GTの出血傾向は小児期より認められその症状は顕著であるが、一般的に年齢とともに軽減することが知られており、多くの成人症例で本疾患が日常生活に及ぼす影響は限られている。診断された患者さんが出血で死亡することは、外傷や他の疾患(がんなど)など重篤な合併症の併発に関連しない限りまれである1)。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)血小板機能障害は1次止血の異常であり、主に皮膚や粘膜に発現することが多い。出血症状の状況(部位や頻度、期間、再発傾向、出血量)および重症度(出血評価ツール)を評価することは、出血症状を呈する患者の評価における最初の重要なステップである。出血の誘因が年齢や性別(月経)に影響するかどうかを念頭に、患者自身および家族の出血歴(術後または抜歯後の出血を含む)、服薬状況(非ステロイド性抗炎症薬)について正確な問診を行う。また、IPDを疑う場合は、出血とは無関係の症状、たとえば眼病変や難聴、湿疹や再発性感染、各臓器の形成不全、精神遅滞、肝腎機能など他器官の異常の可能性に注意を払い、血小板異常機能に関連した症候群型の可能性を評価できるようにする7)。【遺伝性血小板障害の診断】症候学的特徴(出血症状、その他症状、家族歴)血小板数/形態血小板機能検査(透過光血小板凝集検査法)フローサイトメトリー免疫蛍光法、電子顕微鏡法分子遺伝学的解析(Boeckelmann D, et al. Hamostaseologie. 2021;41:460-468.より作成)出血症状に対するスクリーニング検査は、比較的簡単な基礎的な臨床検査で可能であり非専門施設でも実施できる。血液算定、末梢血塗抹標本での形態観察、血液凝固スクリーニング、VWDを除外するためのVWFスクリーニング(VWF抗原、VWF活性[リストセチン補因子活性]、必要に応じて血液凝固第VIII因子活性)などを行う(図2)。上記のスクリーニング検査でIPDの可能性を検討するが、IPDの中には血小板減少を伴うものもあるので、短絡的に特発性血小板減少性紫斑病と診断しないように注意する。末梢血塗抹標本の評価では、血小板の大きさ(巨大血小板)や構造、他の血球の異常の可能性(白血球の封入体)について情報を得ることができ、これらが存在すれば特定のIPDが示唆される。図2 遺伝性血小板障害(フォン・ヴィレブランド病を含む)での血小板凝集のパターン、遺伝子変異と関連する表現型画像を拡大する血小板機能検査として最も広く用いられている方法は透過光血小板凝集検査法(LTA)であり、標準化の問題はあるもののLTAはいまだ血小板機能検査のゴールドスタンダードである。近年では、全自動血液凝固測定装置でLTAが検査できるものもあるため、LTA専用の検査機器を用意しなくても実施できる。図3に示すように、GTではリストセチンを除くすべてのアゴニスト(血小板活性化物質)に対して凝集を示さない。GTやベルナール・スーリエ症候群などの血小板受容体欠損症の診断に細胞表面抗原を測定するフローサイトメトリー(図4)は極めて重要であり、インテグリンαIIbβ3の血小板表面発現の欠損や減少が認められる。インテグリンαIIbβ3活性化エピトープ(PAC-1)を認識する抗体では、活性化不全が認められる8)。図3 血小板無力症と健常者の透過光血小板凝集検査法での所見(PA-200を用いて測定)画像を拡大する図4 血小板表面マーカー画像を拡大するGTでは臨床所見や上記の検査の組み合わせで確定診断が可能であるが、その他IPDを診断するための検査としては、顆粒含有量および放出量の測定(血小板溶解液およびLTA記録終了時の多血小板血漿サンプルの上清中での血小板因子-4やβトロンボグロブリン、セロトニンなど)のほか、血清トロンボキサンB2(TXB2)測定(アラキドン酸由来で生理活性物質であるトロンボキサンA2の血中における安定代謝産物)、電子顕微鏡による形態、血小板の流動条件下での接着および血栓形成などの観察、細胞内蛋白質のウェスタンブロッティングなどが参考となる。遺伝子検査はIPDの診断において、とくに病態の原因と考えられる候補遺伝子の解析を行い、主に確定診断的な役割を果たす重要な検査である。今後は、次世代シーケンサーの普及によるジェノタイピングにより、遺伝子型判定を行うことが容易となりつつあり、いずれIPDでの第一線の診断法となると想定される。ただしこれらの上記に記載した検査については、現段階では保険適用外であるもの、研究機関でしか行えないものも数多い。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)予防や治療の選択肢は限られているため、日常生活での出血リスクを最小限に抑えること、出血など緊急時の対応に備えることが必要である(図5)。図5 出血性疾患に対する出血の予防と治療画像を拡大する罹患している病名や抗血栓薬など避けるべき薬剤などの医療情報(カード)を配布することも有効である。この対応方法は、出血性疾患でおおむね同様と考えられるが、たとえばGTに対しては血小板輸血による同種抗体生成リスクを可能な限り避けるなど、個々の疾患において特別な注意が必要なものもある。この抗血小板抗体は、輸血された血小板除去やその機能の阻害を引き起こし、輸血効果を減弱させる血小板不応の原因となる。観血的手技においては、出血のリスクと処置のベネフィットなど治療効率の評価、多職種(外科医、血栓止血専門医、看護師、臨床検査技師など)による出血に対するケアや止血評価、止血対策のためのプロトコルの確立と遵守(血小板輸血や遺伝子組み換え活性化FVII製剤、抗線溶薬の使用、観血術前や出産前の予防投与の考慮)が不可欠である。IPD患者にとって妊娠は、分娩関連出血リスクが高いことや新生児にも出血の危険があるなどの問題がある。最小限の対策ですむ軽症出血症例から最大限の予防が必要な重篤な出血歴のある女性まで状況が異なるために、個々の症例において産科医や血液内科医の間で管理を計画しなければならない。重症出血症例に対する経膣分娩や帝王切開の選択なども依然として難しい。4 今後の展望出血時の対応などの臨床的な役割を担う医療機関や遺伝子診断などの専門的な解析施設へのアクセスを容易にできるようにすることが望まれる。たとえば、血友病のみならずIPDを含めたすべての出血性疾患について相談や診療可能な施設の連携体制の構築すること、そしてIPD診断については特殊検査や遺伝子検査(次世代シーケンサー)を扱う専門施設を確立することなどである。遺伝性出血性疾患の中には、標準的な治療では対応しきれない再発性の重篤な出血を伴う若い症例なども散見され、治療について難渋することがある。こうした症例に対しては、遺伝性疾患であるからこそ幹細胞移植や遺伝子治療が必要と考えられるが、まだ選択肢にはない。近い将来には、治療法についても革新的技術の導入が期待される。5 主たる診療科血液内科(血栓止血専門医)※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報小児慢性特定疾病情報センター 血小板無力症(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)国立成育医療研究センター 先天性血小板減少症の診断とレジストリ(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)大阪大学‐血液・腫瘍内科学 血小板疾患研究グループ山梨大学大学院 総合研究部医学域 臨床検査医学講座(医療従事者向けのまとまった情報)1)Nurden AT. Orphanet J Rare Dis. 2006;1:10.2)Sivapalaratnam S, et al. Br J Haematol. 2017;179:363-376.3)日笠聡ほか. 日本血栓止血学会誌. 2021;32:413-481.4)Sandrock-Lang K, et al. Hamostaseologie. 2016;36:178-186.5)Nurden P, et al. Haematologica. 2021;106:337-350.6)冨山佳昭. 日本血栓止血学会誌. 2005;16:171-178.7)Gresele P, et al. Thromb Res. 2019;181:S54-S59.8)Gresele P, et al. Semin Thromb Hemost. 2016;42:292-305.公開履歴初回2023年3月30日

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ADAMTS13欠損の先天性TTPにADAMTS13投与が著効した1例/NEJM

 妊娠合併症と動脈血栓症歴のある妊娠30週の27歳女性が、重度のADAMTS13欠損による急性遺伝性血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)の診断を受けた。医療チームは当初、治療的血漿交換(TPE)を実施したが、効果が乏しく中止し、遺伝子組み換えADAMTS13投与に切り替えた。その後、血小板数は正常化、胎児の成長も安定化し、妊娠37週と1日で、在胎不当過小児であったが健康な男子を帝王切開で出産した。その後も患者と生まれた男児の健康状態は良好で、遺伝子組み換えADAMTS13の投与を隔週で継続しているという。スイス・ベルン大学のLars M. Asmis氏らによる症例報告で、NEJM誌2022年12月22日号で発表された。血小板数5~7万/μL、sFlt-1/PlGF比は持続的に上昇、TPEから切り替え 研究グループが初回診察を行ったのは妊娠30週6日の時点。同患者に対し、当初はTPEとメチルプレドニゾロン(1mg/kg)による免疫抑制から成る免疫原性TTP向けの治療を開始した。その後、機能的ADAMTS13インヒビターとIgG・抗ADAMTS13抗体の検査で陰性が認められ、メチルプレドニゾロンの投与は中止した。 連日のTPEにより、ADAMTS13活性ピーク値は約50%だったが、血小板数は5~7万/μL、sFlt-1/PlGF比は持続的に上昇、妊娠週数32週で胎児成長は3パーセンタイルに落ち込んだ。こうした状況を総合的に判断し、血漿難治TTPの発症、胎盤機能不全、切迫子宮内胎児死亡の危険性が高いと判断した。 医療チームは患者とその夫の同意を得て、TPEを中止し、遺伝子組み換えADAMTS13(40U/kg)の週1回注射投与を開始した。初回遺伝子組み換えADAMTS13(2,480U)は、TPE中止後36時間、妊娠32週5日で行った。遺伝子組み換えADAMTS13投与はすべて外来診療で行い、有害薬物反応は認められなかった。患者の血小板数は14~19万/μLに急激に増加し、妊娠期間中その値を維持した。正常Apgarスコア、出生体重1,865gの健康な男児を出産 予定帝王切開時までに、患者のsFlt-1/PlGF比は最大化した後、減少傾向となったが、胎児体重推定値は依然として在胎期間相当3パーセンタイルで推移していた。 帝王切開は妊娠37週1日で行われ、患者は、正常Apgarスコアで出生体重1,865g(在胎期間相当で1パーセンタイル未満)の健康な男児を出産した。出産7日後の退院時、母体血小板数は21万6,000/μLだった。 本報告書作成時点で、患者にはアスピリン投与と、遺伝子組み換えADAMTS13(40U/kg)の隔週投与が継続されている。

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第146回 マウスの老化を巻き戻し / 武田薬品の紫斑病薬が承認申請される

山中因子でマウスの老化を巻き戻し10年ほど前に京都大学の山中伸弥教授をノーベル賞へと導いたiPS細胞(人工多能性幹細胞)の素が個体の老化を巻き戻して若返らせうることを2つの研究チームが報告しました。今では山中教授の名を冠して山中因子と呼ばれるそのiPS細胞の素は4つのタンパク質(転写因子)で構成され、分化した成体細胞を多能性の幹細胞(iPS細胞)へと変えることで知られます。今回米国・カリフォルニア州サンディエゴのバイオテック企業Rejuvenate Bio社のチームはそれら山中因子のうちの3つOct4、Sox2、Klf4を届ける遺伝子治療で老化マウスがより長生きになったことを報告しました1,2)。ハーバード大学の抗老化治療研究者David Sinclair氏が率いる別のチームはRejuvenate社と同様の手段により、マウスの老化状態を若い状態へと回復させうることを示しました3,4)。頭文字をとってOSKと呼ばれるOct4、Sox2、Klf4はそれらどちらの研究でもメチル化などのDNA取り巻き・エピゲノムをより若い状態へと回復させたようです5)。Rejuvenate社はヒトの治療に即した手段を検討するべく、ヒトの遺伝子治療で使われているアデノ随伴ウイルス(AAV)を運搬役としてOSK遺伝子を老齢(生後124週間)のマウスに投与しました。するとその後の余命はより長くなり、対照群マウスが9週間ほどしか生きられなかったのに対してOSK遺伝子投与マウスはその約2倍の約18週間生存しました。加えて、健康指標が向上してより丈夫になったことがうかがわれました。分子レベルでもどうやら若返りしており、より若い頃に特有なメチル化特徴の幾らかをどうやら取り戻していました。山中因子はがんを生じやすくしうることが先立つ研究で示唆されていますが、幸いにも取るに足る害は今のところ認められていないとRejuvenate社の最高科学責任者(CSO)Noah Davidsohn氏は言っています5)。ハーバード大学のSinclair氏のチームが目指したのはDNA切断などのDNA配列の乱れではなくDNA取り巻きのエピゲノム情報の損失こそ老化の原因であるという仮説(information theory of aging)が正しいことの証明です。同チームはICE(inducible changes to the epigenome)という一工夫を加えたマウス(ICEマウス)のゲノムの20箇所のDNAをいったん切断してその後完全に修復させました5)。するとDNA切断の完全な修復とは裏腹にDNAメチル化や遺伝子発現は広範囲に渡って変化し、マウスのエピゲノムはメリハリの乏しい老化マウスにより似たものとなりました6)。また体調も損なわれ、体毛や色素を失い、弱々しくなって組織の老化を呈しました。エピゲノム情報の損失が老化の原因であるなら若返りをもたらす治療でエピゲノム情報も回復するはずです。そこでSinclair氏のチームもRejuvenate社と同様にOSK遺伝子を老けて見えるICEマウスに投与したところ、果たせるかなエピゲノム情報の回復が認められ、組織も若返りの兆候を呈しました。戻すことも可能なエピゲノム情報損失こそ老化の原因であることを今回の結果は示しているとSinclair氏のチームは結論していますが、若返りを研究するAltos Labs社が去年開設したAltos Cambridge Institute of Scienceの長Wolf Reik氏はそう断言するのは時期尚早と見ています。エピゲノム変化を引き出した大掛かりなDNA切断(とその修復)は他にも影響があったかもしれず、そうして生じたDNAエピゲノム変化を老化の原因とするのは困難であるとReik氏は言っています。それに、DNA切断(とその修復)を強いたマウスが自然に老化したマウスとどれだけ似ているかも分かっていません。米国・Albert Einstein College of Medicineの遺伝学者Jan Vijg氏によると、老化は種々の要因が絡んで進行していくものであることを忘れてはいけません。今回の2つの報告でのOSK遺伝子投与の効果はそれほどでもなく、1つでは寿命がいくらか伸びた程度で、もう1つでは強いて発生させた症状が部分的に解消したに過ぎません。老化は戻すことが可能な情報処理(program)であるとそれらの研究をもって結論することはできないとVijg氏は言っています。そのような批評はさておきRejuvenate社もSinclair氏のチームも臨床試験へと駒を進めることを目指します。Rejuvenate社はOSK治療効果の仕組みを研究し、治療の体内への運搬手段や成分の手直しをしています。同社の上述のCSO・Davidsohn氏によると治療成分はOSKに決定しているわけではありません。Sinclair氏はエピゲノム情報を回復させる治療に取り組むバイオテック企業Life Biosciencesを設立し、まずは霊長類の視力を改善させる研究を進めています6)。サルの眼へのOSK遺伝子投与の試験が進行中であり、その試験が成功してヒトにも十分安全らしいことがわかれば失明疾患の臨床試験の開始をすぐに米国FDAに申請するとSinclair氏は言っています5)。前々回紹介の武田薬品の紫斑病薬が承認申請される本連載の前々回(第144回)で取り上げた武田薬品の紫斑病薬TAK-755が良好なピボタル(主要な)第III相試験中間解析結果を受けて承認申請されます7,8)。今月5日に発表されたその中間解析の結果、同剤が投与された先天性血栓性血小板減少性紫斑病(cTTP)患者の血小板減少症事象は標準治療である血漿製剤使用群に比べて60%少なくて済み、その95%信頼区間の上限は100%未満に収まっていました(95%信頼区間:30~70%)。cTTPは血液凝固の制御に携わる血中タンパク質ADAMTS13の欠乏によって生じます。TAK-755はその不足を補う人工のADAMTS13です。【前々回の記事の誤解の訂正】前々回の記事で人工ADAMTS13(TAK-755)は現在第III相試験(NCT04683003)9)が進行中と記しましたが、その試験とそれに先立つもう1つの第III相試験(281102 試験/NCT03393975)10)が実施されています。前々回の記事で抜けていた281102 試験こそ今月5日に武田薬品が中間結果を発表したピボタル第III相試験です。Clinicaltrials.govによるとどちらの試験も本記事執筆時点で被験者組み入れが進行中です。お詫びして修正いたします。参考1)Gene Therapy Mediated Partial Reprogramming Extends Lifespan and Reverses Age-Related Changes in Aged Mice. bioRxiv. January 05, 2023. 2)Rejuvenate Bio Announces New Preclinical Research Evaluating Cellular Reprogramming for Age Reversal / BUSINESS WIRE3)Yang JH, et al. Cell Jan 9:S0092-8674.01570-7[Epub ahead of print].4)Loss of Epigenetic Information Can Drive Aging, Restoration Can Reverse It / Harvard Medical School5)Two research teams reverse signs of aging in mice / Science 6)Epigenetic Manipulations Can Accelerate or Reverse Aging in Mice / TheScientist7)Takeda Announces Favorable Phase 3 Safety and Efficacy Results of TAK-755 as Compared to Standard of Care in Congenital Thrombotic Thrombocytopenic Purpura (cTTP) / BUSINESS WIRE8)先天性血栓性血小板減少性紫斑病(cTTP)に対する標準治療と比較したTAK-755の良好な安全性および有効性を示す臨床第3相試験の結果について / 武田薬品9)A Study of TAK-755 in Participants With Congenital Thrombotic Thrombocytopenic Purpura(Clinical Trials.gov)10)A Study of BAX 930 in Children, Teenagers, and Adults Born With Thrombotic Thrombocytopenic Purpura (TTP) (Clinical Trials.gov)

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第144回 コロナ合併症MIS-C関連変異同定/クリスマス前の人情報告~開発段階の薬が人助け

小児のコロナ合併症MIS-Cに寄与する遺伝子欠陥を同定新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染症(COVID-19)小児の稀だけれども下手したら命を奪いかねない多臓器炎症症候群(MIS-C)に寄与しうる遺伝子変異が見つかりました1,2)。MIS-CはCOVID-19発症からたいてい4週間後ぐらいに生じ、発熱、嘔吐、心筋の炎症などを引き起こして入院治療を強います。MIS-Cの発生率はSARS-CoV-2感染小児1万例当たりおよそ1例と稀ですが、米国での今夏8月末までのMIS-C小児数は約9千例(8,826例)に上り3)、悲しくも命を落とすこともあって71例は死亡しています。MIS-Cで上昇する生理指標によると複数の臓器での炎症が示唆され、単球の活性化持続がMIS-Cの主な免疫特徴として一貫して報告されています。さらには、単球活性化作用だけにとどまらない2型インターフェロン(IFN-γ)伝達絡みの指標がMIS-Cの初期にしばしば上昇します。そのような背景を受け、米国のロックフェラー大学が率いるチームはSARS-CoV-2への免疫反応を不得手にする生まれながらの遺伝子欠陥がMIS-Cの下地になっているかもしれないと考え、世界のMIS-C患者558例のエクソームやゲノム配列を調べ上げました。実に総勢およそ百人の研究者が携わったその途方もない取り組みは類縁関係のないMIS-C患者5例へとやがて収束します。インターフェロンによって発生してウイルスなどの二本鎖RNA(dsRNA)を感知するタンパク質OASやOASによって活性化される酵素RNase Lの欠陥をもたらす変異をそれらMIS-C患者5例から発見したのです。RNase Lはいわばハサミのようなもので、タンパク質へと翻訳されるmRNAを切断します。見つかったOAS変異はRNase Lを働けなくし、RNase L変異はまともなRNase Lを作れなくします。OASやRNase Lいずれかを欠損した免疫細胞(単核球細胞や骨髄細胞)のdsRNAやSARS-CoV-2への反応を調べたところ果たしてMIS-Cで生じるのに似た炎症性サイトカイン過剰生成が認められました。研究チームはRNase L欠乏細胞でのサイトカイン生成に寄与する経路も突き止めており、OASやRNase Lの欠乏はSARS-CoV-2感染に伴う無節操な炎症性サイトカイン生成をもたらしてMIS-Cを醸成したと結論しています。今回の研究で判明したMIS-C関連変異やそれら変異の免疫への影響の仕組みは川崎病などのMIS-Cに似た他の慢性炎症疾患の研究にも役立つでしょう2)。クリスマス前に心温まった報告~開発段階の薬が妊婦とその胎児を救った血液凝固の制御に携わる血中タンパク質ADAMTS13の重度欠乏による親譲りの血栓性血小板減少性紫斑病(先天性TTP)が妊娠中に判明した女性が武田薬品の開発段階の人工ADAMTS13(recombinant ADAMTS13、TAK-755)投与のおかげで無事に赤ちゃん(男児)を出産することができました4)。先天性TTP患者へのADAMTS13の目下の供給源は血漿ですがその女性のTTPに血漿交換(therapeutic plasma exchange)は歯が立たず、胎児はすぐにでも命を落としかねない状況となりました。女性の担当医師等は早い段階から先を見越して人工ADAMTS13のメーカー(武田薬品)に急遽の斟酌使用(emergency compassionate use)の要望を伝え、必要な手続きを経た上で人工ADAMTS13を入手しました。同剤使用に当たって担当医師は要所要所すべてで女性本人とその夫を交えて方針を決定しました。そのような一刻を争ったであろう状況の中、武田薬品から提供された人工ADAMTS13の投与の甲斐あって女性の血小板数は幸いにも正常化し、胎児の発育も安定化します。そして妊娠は37週過ぎまで持ちこたえてついには帝王切開による赤ちゃん(男児)の出産に漕ぎ着けることができました。クリスマス前の22日にNEJMに掲載されたその報告で著者はスイスと米国の武田薬品の従業員を含む関係者一同に謝意を示しています。論文執筆の時点で女性も男児も健やかに過ごせており、女性は2週間に1回の人工ADAMTS13投与を続けています。人工ADAMTS13は現在第III相試験(NCT04683003)が進行中です。結果がわかるのはしばらく先のようで、試験完了予定は2026年8月末です5)。参考1)Lee D, et al. Science. 2022 Dec 20;eabo3627. [Epub ahead of print]2)Research identifies potential genetic cause for MIS-C complication following COVID-19 infection / Eurekalert3)Melgar M, et al. MMWR Recomm Rep. 2022;71:1-14.4)Asmis LM, et al. N Engl J Med. 2022;387:2356-23615)A Study of TAK-755 in Participants With Congenital Thrombotic Thrombocytopenic Purpura(Clinical Trials.gov)

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論文検索で困惑…医療略語が複数存在する疾患【知って得する!?医療略語】第22回

第22回 論文検索で困惑…医療略語が複数存在する疾患ITPの和訳がよく分かりません。教えてください。ITPには現在「特発性血小板減少性紫斑病」「免疫性血小板減少性紫斑病」「免疫性血小板減少症」の3つの和訳が存在するようです。≪医療略語アプリ「ポケットブレイン」より≫【略語】    ITP【日本語/英字】特発性血小板減少性紫斑病/idiopathic thrombocytopenic purpura免疫性血小板減少性紫斑病/immune thrombocytopenic purpura免疫性血小板減少症/immune thrombocytopenia【分野】    血液【診療科】   血液内科・小児科【関連】    ―実際のアプリの検索画面はこちら※「ポケットブレイン」は医療略語を読み解くためのもので、略語の使用を促すものではありません。筆者が学生の頃、血小板減少疾患であるITPは、特発性血小板減少性紫斑病(idiopathic thrombocytopenic purpura)と覚えました。しかし、近年ITPが「免疫性血小板減少性紫斑病:immune thrombocytopenic purpura」と訳されているのを見かけるようになりました。医師国家試験関連の参考書を参照しても、ITPは「免疫性血小板減少性紫斑病」で記載されています。ITPの和訳は変更されたのでしょうか。調べてみると、成人特発性血小板減少性紫斑病治療の参照ガイド2019改訂版1)が存在します。また難病情報センターの登録難病の病名2)も特発性血小板減少性紫斑病となっています。一方、小児免疫性血小板減少症診療ガイドライン2022年版というものも存在し、小児慢性特定疾病情報センターのサイトを見ると、免疫性血小板減少性紫斑病が告示病名3)となっています。また同サイトによれば、ITPは血小板減少があっても必ずしも紫斑を伴わないため「紫斑病」は除き、免疫性血小板減少症(immune thrombocytopenia: ITP)と表記するとの記載があります。しかし、それぞれの資料で疾患概要を調べてみると、特発性血小板減少性紫斑病、免疫性血小板減少性紫斑病、免疫性血小板減少症は、同一の疾患です。ちなみに厚生労働省保険局が運営する傷病名マスター4)には、「特発性血小板減少性紫斑病」は存在しますが、「免疫性血小板減少性紫斑病」は登録されていません。ITPと同じように、同一疾患(病態)に複数の病名が存在して困惑するのが血球貪食症候群(hemophagocytic lymphohistiocytosis:HPS)、血球貪食性リンパ組織球症 (hemophagocytic lymphohistiocytosis:HLH)です5)。医学的知見の集積で、より適切な病名に変更されていくことに異義はありません。しかし、同一の疾患や病態に複数の病名が併存することは、少なからず混乱を生じます。まず、それぞれの病名で一見すると別疾患のように誤解を生じます。また、学会発表や論文作成をする時にどちらの用語を用いれば良いか迷いますし、症例集積などの臨床研究や文献検索においても支障を来すと考えられます。昨今注目される医療データ活用の観点でも、同一疾患に複数の病名が存在することは、医療データの活用を阻害しかねません。この問題は日本に医療用語の整備、統一病名変更を告知する組織がないことが原因だと思います。学会の垣根を越えて、用語の統一が図られることを切に願います。1)成人特発性血小板減少性紫斑病治療の参照ガイド 2019改訂版2)難病情報センター:特発性血小板減少性紫斑病(指定難病63)3)小児慢性特定疾病情報センター:免疫性血小板減少性紫斑病4)厚生労働省保険局:診療報酬情報提供サービス5)熊倉 俊一. 血栓止血誌. 2008;19:210-215.

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新規作用機序、後天性血栓性血小板減少性紫斑病治療薬「カブリビ」承認/サノフィ

 サノフィは、2022年9月26日付のプレスリリースで、「後天性血栓性血小板減少性紫斑病」の効能または効果として、カブリビ注射用10mg(一般名:カプラシズマブ(遺伝子組換え)、以下「カブリビ」)の製造販売承認を取得したと発表した。 後天性血栓性血小板減少性紫斑病(以下、後天性TTP)は、重篤でまれな自己免疫性血液疾患で、予後不良な急性疾患とされている。そのため、急性期における死亡を防ぐためにも、緊急の治療を要する。後天性TTPは、止血に関わるタンパク質であるフォン・ヴィレブランド因子(VWF)の特異的切断酵素であるADAMTS13(a disintegrin and metalloproteinase with a thrombospondin type 1 motif, member 13)の活性低下により、血液中にVWFが過剰に重合して蓄積し、血小板凝集を引き起こすことが原因で発症する。多くの場合、後天性TTPの診断直後の数日間は集中治療室で現行の治療(血漿交換療法と免疫抑制療法)を受けるが、死亡する患者は最大20%に及び、その大部分は診断後30日以内といわれているため、早期診断・早期治療が重要とされている。 今回承認されたカブリビは、止血に関わるVWFを標的とし、VWFと血小板の相互作用を阻害することで、微小血栓形成を阻害する薬剤である。これまで、後天性TTPの治療薬として微小血栓形成を直接阻害する治療薬はなく、カブリビは後天性TTPに対し新規の作用機序を持つ薬剤として発売されることが期待される。なお、欧州では2018年8月に、米国では2019年2月に薬事承認され、国内では2020年6月に希少疾病用医薬品に指定されている。

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BTK阻害薬、治療歴ある免疫性血小板減少症に効果/NEJM

 治療歴のある免疫性血小板減少症に対し、経口ブルトン型チロシンキナーゼ(BTK)阻害薬rilzabrutinibの有効性と安全性が、第I-II相の国際非盲検用量設定試験で確認された。評価した全用量で血小板反応性が認められ、毒性効果は報告されたがいずれも低グレードだった。米国・マサチューセッツ総合病院のDavid J. Kuter氏らによる検討で、NEJM誌2022年4月14日号で発表された。rilzabrutinibは、マクロファージ(Fcγ受容体)を介した血小板破壊の抑制と病原性自己抗体産生の抑制という2つの作用機序によって、免疫性血小板減少症の患者の血小板数を増加させる可能性が示唆されていた。用量漸増法を用いて4用量について安全性と血小板反応性を評価 治療歴のある免疫性血小板減少症患者に対するrilzabrutinib治療の評価は適応的デザイン法にて行われ、個人内用量漸増法を用いてrilzabrutinibを24週間経口投与した。 開始用量は4段階で、200mgを1日1回、400mgを1日1回、300mgを1日2回、400mgを1日2回とした。 主要エンドポイントは、安全性と血小板反応性。血小板反応性は、血小板数が少なくとも2回連続で50×103/mm3以上、かつレスキュー薬なしでベースラインから20×103/mm3以上増加と定義した。血小板反応性は全体で40%、血小板数50×103/mm3以上到達まで11.5日 試験には60例が登録され、ベースラインの血小板数中央値は15×103/mm3、罹病期間中央値は6.3年、これまでに受けた免疫性血小板減少症治療の中央値は4種類だった。 治療関連の有害イベントは、いずれもGrade1または2で一過性だった。Grade2以上の治療関連出血または血栓イベントは報告されなかった。 治療期間中央値167.5日(範囲:4~293)時点で、主要エンドポイントの血小板反応性が認められたのは、全体では24/60例(40%)であり、rilzabrutinibの最高用量開始群では18/45例(40%)だった。 また、最初に血小板数50×103/mm3以上に到達するまでの期間中央値は、11.5日だった。主要血小板反応性が認められた患者において、血小板数50×103/mm3以上の週が占めた割合は平均65%だった。

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コロナワクチン後の重篤疾患、接種3週までのリスクは?/JAMA

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のmRNAワクチン安全性サーベイランスデータの中間解析において、重篤な疾患の発生リスクはワクチン接種後1~21日間(リスク期間)と22~42日間(対照期間)とで有意な差はないことが示された。米国・カイザーパーマネンテ北カリフォルニアのNicola P. Klein氏らが、Vaccine Safety Datalink(VSD)に登録された620万人、1,180万回の接種に関するデータの解析結果を報告した。COVID-19ワクチンの安全性サーベイランスは、安全性の確保、信頼性の維持、および政策への情報提供に重要である。JAMA誌オンライン版2021年9月3日号掲載の報告。米国のワクチン安全性監視システムのデータを用い23疾患の発生を解析 研究グループは、米国のワクチン安全性監視システムであるVSDに参加している8つのヘルスプラン組織(Kaiser Permanente Colorado・Northern California・Northwest・Southern California・Washington、Marshfield Clinic、HealthPartners、Denver Health)の包括的な医療記録を用い、2020年12月14日~2021年6月26日の、mRNAワクチン接種後の重篤なアウトカムについて解析した。解析対象は12歳以上のワクチン適格者1,016万2,227人で、対象ワクチンはBNT162b2(Pfizer-BioNTech製)またはmRNA-1273(Moderna製)とした。 主要評価項目は、急性散在性脳脊髄炎、急性心筋梗塞、虫垂炎、ベル麻痺、脳静脈洞血栓症、痙攣・てんかん、播種性血管内凝固症候群、脳炎/脊髄炎/脳脊髄炎、ギラン・バレー症候群、免疫性血小板減少症、川崎病、心筋炎/心膜炎、肺塞栓症、出血性脳卒中、虚血性脳卒中、血小板減少を伴う血栓症、血栓性血小板減少性紫斑病、横断性脊髄炎、静脈血栓塞栓症、急性呼吸促迫症候群、アナフィラキシー、多系統炎症性症候群、ナルコレプシー/カタプレキシーの計23疾患の発生である。 ワクチン(1回目または2回目)接種後1~21日間をリスク期間、接種後22~42日間を対照期間として、同じ暦日に各期間に該当する接種者について、対象疾患の発症リスクを比較した。ポアソン回帰法を用い、年齢、性別、人種/民族、ヘルスプラン、暦日で調整した率比(RR)を算出した(有意水準は片側p値<0.0048)。なお、急性呼吸促迫症候群、アナフィラキシー、多系統炎症性症候群、ナルコレプシー/カタプレキシーの4疾患については記述的解析のみ実施した。重篤な疾患の発生リスクは、接種後1~21日間と22~42日間で有意差なし 2020年12月14日~2021年6月26日の期間に、620万人(平均年齢49歳、女性54%)に対して、mRNAワクチンが計1,184万5,128回接種された。BNT162b2が675万4,348例(57%)、mRNA-1273が509万780例、1回目接種が617万5,813例、2回目接種が566万9,315例であった。 リスク期間vs.対照期間での100万人年当たりのイベント発生率は、虚血性脳卒中が1,612 vs.1,781(RR:0.97、95%信頼区間[CI]:0.87~1.08)、虫垂炎が1,179 vs.1,345(0.82、0.73~0.93)、急性心筋梗塞が935 vs.1,030(1.02、0.89~1.18)であった。ワクチンとイベント発生との関連性については、すべての対象疾患において事前規定の有意水準を満たさなかった。 確認されたアナフィラキシーの発生率は、BNT162b2ワクチン100万回当たり4.8(95%CI:3.2~6.9)、mRNA-1273ワクチン100万回当たり5.1(3.3~7.6)であった。

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総合内科専門医試験オールスターレクチャー 血液

第1回 急性・慢性白血病第2回 悪性リンパ腫第3回 多発性骨髄腫 Oncology emergency第4回 骨髄増殖性腫瘍 造血幹細胞移植第5回 貧血性疾患・造血不全第6回 出血・血栓性疾患 総合内科専門医試験対策レクチャーの決定版登場!総合内科専門医試験の受験者が一番苦労するのは、自分の専門外の最新トピックス。そこでこのシリーズでは、CareNeTV等で評価の高い内科各領域のトップクラスの専門医を招聘。各科専門医の視点で“出そうなトピック”を抽出し、1講義約20分で丁寧に解説します。キャッチアップが大変な近年のガイドラインの改訂や新規薬剤をしっかりカバー。Up to date問題対策も万全です。血液については、渡邉純一先生が講義します。数々の新薬の登場による血液腫瘍の治療法の変化が最大のポイントです。※「アップデート2022追加収録」はCareNeTVにてご視聴ください。第1回 急性・慢性白血病第1回のテーマは、急性・慢性白血病です。急性骨髄性白血病、急性前骨髄球性白血病、急性リンパ性白血病、慢性骨髄性白血病、慢性リンパ性白血病について、近年のガイドラインの改訂や、新規薬剤の情報を整理して解説します。第2回 悪性リンパ腫血液の第2回は、悪性リンパ腫について解説します。悪性リンパ腫については、低悪性度から高悪性度B細胞リンパ腫など、各種それぞれのリンパ腫に適した、多数の新規薬剤が登場し、治療のスタンダードとなっています。臨床データを押さえながら、新しい治療薬について説明します。第3回 多発性骨髄腫 Oncology emergency血液の第3回は、多発性骨髄腫とOncology emergencyについて解説します。近年、さまざまな新規薬剤によって、予後が改善している多発性骨髄腫。ただし、完治が厳しい疾患であることには変わりなく、共存を目的とした治療計画が立てられています。薬剤のメカニズムと副作用も重要なポイントです。悪性腫瘍の経過で、急速に悪化した場合の緊急治療Oncology emergencyについて、血液内科領域の対応や基礎疾患、症状を確認します。第4回 骨髄増殖性腫瘍 造血幹細胞移植骨髄増殖性腫瘍には、真性多血症、原発性骨髄繊維症、本態性血小板血症があります。年齢によってリスクが変化するため、治療方針も異なります。使用する薬剤のメリットとデメリットも確認しましょう。造血幹細胞移植には、自家移植と同種移植があります。とくに同種移植について、合併症のリスクや保険適用となった新薬の解説をします。第5回 貧血性疾患・造血不全骨髄不全の疾患である、再生不良性貧血、発作性夜間血色素尿症、骨髄異形成症候群について解説します。近年ガイドラインが改訂された、再生不良性貧血の診療指針の変更点や、骨髄異形成症候群のリスク分類を確認しておきましょう。造血不全による貧血性の疾患は、各種貧血の病態や、保険適用となっている薬剤など、基本をしっかり復習します。第6回 出血・血栓性疾患出血・血栓性疾患には、血小板減少を伴うものと、凝固異常を伴うものがあります。特発性血小板減少性紫斑病と血栓性血小板減少性紫斑病のガイドラインには、新薬が加えられました。播種性血管内凝固は、診断基準がアップデートされたので注意しましょう。後天性血友病、フォンウィルブランド病、抗リン脂質抗体症候群、先天性血友病についてもポイントを説明します。

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子宮頸がんの原因となるHPV型の約90%をカバーする「シルガード9水性懸濁筋注シリンジ」【下平博士のDIノート】第71回

子宮頸がんの原因となるHPV型の約90%をカバーする「シルガード9水性懸濁筋注シリンジ」今回は、「組換え沈降9価ヒトパピローマウイルス(HPV)様粒子ワクチン(商品名:シルガード9水性懸濁筋注シリンジ、製造販売元:MSD)」を紹介します。本剤は、子宮頸がんなどの原因となる7つのHPV型と、尖圭コンジローマなどの原因となる2つのHPV型の感染を予防する9価のHPVワクチンです。<効能・効果>本剤は、HPV6、11、16、18、31、33、45、52および58型の感染に起因する以下の疾患の予防の適応で、2020年7月21日に承認され、2021年2月24日より発売されています。なお、本剤の予防効果の持続期間は確立していません。子宮頸がん(扁平上皮細胞がんおよび腺がん)およびその前駆病変(子宮頸部上皮内腫瘍[CIN]1、2および3ならびに上皮内腺がん[AIS])外陰上皮内腫瘍(VIN)1、2および3ならびに腟上皮内腫瘍(VaIN)1、2および3尖圭コンジローマ<用法・用量>9歳以上の女性に、1回0.5mLを合計3回(2回目は初回接種の2ヵ月後、3回目は6ヵ月後)、筋肉内に注射します。1年以内に3回の接種を終了することが望ましいですが、2回目は初回から少なくとも1ヵ月以上、3回目は2回目から少なくとも3ヵ月以上の間隔を置いて接種することとされています。9歳以上15歳未満の女性は、初回接種から6~12ヵ月の間隔をおいた合計2回の接種とすることができます(2023年3月改訂)。9歳以上15歳未満の女性に合計2回の接種をする場合、13ヵ月後までに接種することが望ましいとされています。なお、医師が必要と認めた場合には、他ワクチンと同時に接種することができますが、本剤と他ワクチンを混合して接種することはできません。<安全性>日本人を含む後期第II相/第III相国際共同試験(001試験)において、注射部位の副反応は、本剤接種後5日間で7,071例中6,414例(90.7%)に認められ、主なものは疼痛6,356例(89.9%)、腫脹2,830例(40.0%)、紅斑2,407例(34.0%)、そう痒感388例(5.5%)、内出血137例(1.9%)、腫瘤90例(1.3%)、出血69例(1.0%)でした。また、全身性の副反応は、本剤接種後15日間で7,071例中2,090例(29.6%)に認められ、主なものは頭痛1,033例(14.6%)、発熱357例(5.0%)、悪心312例(4.4%)、浮動性めまい211例(3.0%)、疲労166例(2.3%)、下痢87例(1.2%)、口腔咽頭痛73例(1.0%)、筋肉痛69例(1.0%)でした。日本人を対象とした国内第III相臨床試験(008試験)では、注射部位の副反応は、本剤接種後5日間で100例中95例(95.0%)に認められ、主なものは疼痛93例(93.0%)、腫脹42例(42.0%)、紅斑33例(33.0%)、そう痒感4例(4.0%)、出血3例(3.0%)、熱感3例(3.0%)でした。また、全身性の副反応は、本剤接種後15日間で100例中14例(14.0%)に認められ、主なものは発熱3例(3.0%)、頭痛2例(2.0%)、悪心2例(2.0%)、感覚鈍麻2例(2.0%)、腹痛2例(2.0%)でした。なお、重大な副作用として、過敏症反応(アナフィラキシー、気管支痙攣、蕁麻疹)、ギラン・バレー症候群、血小板減少性紫斑病、急性散在性脳脊髄炎(ADEM)(いずれも頻度不明)が設定されています。国内外の臨床試験における安全性検討対象1万3,408例では、過敏症3例および蕁麻疹20例が副反応として報告されています。ギラン・バレー症候群、血小板減少性紫斑病およびADEMは臨床試験において認められていませんが、本剤と同一の有効成分を含むワクチン(商品名:ガーダシル)と同様に設定されました。<患者さんへの指導例>1.ワクチン接種により、子宮頸がんや尖圭コンジローマなどの原因となる9つのHPV型に対する抗体ができ、今後の感染を予防します。2.接種後に血管迷走神経反射として失神が現れることがあります。接種後30分程度は、背もたれや肘掛けのある安全ないすに座っていてください。3.本剤接種後に、注射部位だけでなくほかの部位に激しい痛み(筋肉痛、関節痛、皮膚の痛みなど)やしびれ、脱力などが現れて長時間持続する場合は、速やかに医師に相談してください。4.十分な予防効果を得るために、必ず本剤を3回接種してください。通常の接種スケジュールは、初回接種の2ヵ月後に2回目、初回接種の6ヵ月後に3回目となります。<Shimo's eyes>わが国において、年間約1万人が子宮頸がんに罹患し、毎年約2,900人が死亡しています。患者数・死亡者数ともに近年増加傾向にあり、子宮頸がん発症のピークが出産年齢と重なることが問題となっています。子宮頸がんの95%以上はHPV感染が原因で、感染経路は主に性的接触です。性交渉の経験がある女性のうち、50~80%が生涯で一度以上の感染を経験すると推計されていて、そのうちの一部が将来的に高度前がん病変や子宮頸がんを発症します。本剤は、わが国で3番目に発売されたHPVワクチンです。いずれの製剤も筋肉内注射で、計3回接種が必要です。既存薬の1つである2価ワクチン(商品名:サーバリックス)は、子宮頸がんの主な原因となるHPV16型と18型の感染を予防します。もう1つの既存薬である4価ワクチン(同:ガーダシル)は、上記に加えて尖圭コンジローマなどの原因となる6型と11型の感染も予防します。4価ワクチンは、2020年12月に男性も接種が可能となりました(公費助成の対象外)。本剤は、2021年2月に発売された9価ワクチンで、前述の4つのHPV型に加えて、31型・33型・45型・52型・58型の5つのHPV型のウイルス様粒子も含有することで、約90%の子宮頸がんを予防することが期待されています。既存2剤は定期接種の対象で、小学6年生~高校1年生相当の女子は公費助成によって無料で接種を受けることができます。発売当初は本剤は任意接種でしたが、2023年4月から本剤についても定期接種の対象となりました。HPVワクチンは、今後のHPVの感染を予防するものであり、すでにHPVに感染している細胞からのウイルス排除や進行抑制には効果はありません。したがって、性交渉を経験する前に接種することが最も効果的ですが、性交渉の経験があっても、予防対象のHPV型に感染していなければ効果が期待できます。HPVワクチンについては、過去に疼痛や運動障害などの副反応が大きく報道され、2013年6月に厚生労働省より「積極的な勧奨の一時差し控え」が発表されました。世界では接種完遂率が80%を超える国もある中、わが国の接種率は0.3%と非常に低い水準にとどまっています。一方で、2017年11月に、厚生労働省専門部会は、HPVワクチン接種後に報告された多様な症状とHPVワクチンとの因果関係を示す根拠は報告されていないと発表しています。近年、国が地方自治体に定期接種対象者への周知を徹底するよう求めるなど、接種率向上に向けた動きがみられています。※2023年8月、厚生労働省の情報などをもとに、一部内容の修正を行いました。参考1)PMDA 添付文書 シルガード9水性懸濁筋注シリンジ2)子宮頸がんとHPVワクチンに関する正しい理解のために(日本産科婦人科学会)3)海外のHPVワクチンの現状(MSD)

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HPVワクチン接種と33の重篤な有害事象に関連なし、韓国/BMJ

 韓国のヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチン接種を受けた11~14歳の女子において、コホート分析では33種の重篤な有害事象のうち片頭痛との関連が示唆されたものの、コホート分析と自己対照リスク間隔分析(self-controlled risk interval[SCRI] analysis)の双方でワクチン接種との関連が認められた有害事象はないことが、同国・成均館大学校のDongwon Yoon氏らの調査で示された。研究の成果は、BMJ誌2021年1月29日号に掲載された。HPVワクチン接種後の重篤な有害事象は、このワクチンの接種に対する大きな懸念と障壁の1つとなっている。HPVワクチンの安全性に関する実臨床のエビデンスは、西欧では確立しているが、アジアのエビデンスは十分ではないという。韓国の大規模データベースを用いたコホート研究 研究グループは、韓国の思春期女子におけるHPVワクチン接種と重篤な有害事象の関連を評価する目的で、コホート研究を実施した(韓国Government-wide R&D Fund project for infectious disease research[GFID]などの助成による)。 韓国予防接種登録情報システムと国立保健情報データベースのデータを統合し、2017年に11~14歳だった女子の同年1月~2019年12月の大規模データベースを構築した。 44万1,399人のデータが解析に含まれた。このうち、38万2,020人が42万9,377回のHPVワクチン接種を受け(HPVワクチン接種群)、残りの5万9,379人はHPVワクチン接種を受けず、8万7,099回の日本脳炎ワクチンまたは破傷風・ジフテリア・無細胞性百日咳混合ワクチンの接種を受けた(HPVワクチン非接種群)。 主要アウトカムは、33種の重篤な有害事象とした。重篤な有害事象には、内分泌(グレーブス病、橋本甲状腺炎など)、消化器(クローン病、潰瘍性大腸炎など)、心血管(レイノー病、静脈血栓塞栓症など)、筋骨格・全身性(強直性脊椎炎、ベーチェット症候群など)、血液(特発性血小板減少性紫斑病、ヘノッホ-シェーンライン紫斑病)、皮膚(結節性紅斑、乾癬)、神経系(ベル麻痺、てんかんなど)の疾患が含まれた。 主解析はコホートデザインで行い、SCRI分析を用いて2次解析を実施した。4価ワクチン接種者で片頭痛が増加 ワクチン接種時の平均年齢は、HPVワクチン接種群が12.42(SD 0.82)歳、HPVワクチン非接種群は11.84(0.56)歳であった。接種群のうち38.7%は1回、61.3%は2回のHPVワクチン接種を受け、29万5,365人が4価、8万6,655人は2価ワクチンの接種を受けた。合計51万6,476回のHPVワクチン接種が行われた。 コホート分析では、たとえば橋本甲状腺炎(10万人年当たりの発生率:接種群52.7 vs.非接種群36.3、補正後率比[RR]:1.24、95%信頼区間[CI]:0.78~1.94)や、関節リウマチ(168.1 vs.145.4、0.99、0.79~1.25)などではHPVワクチン接種との関連はみられず、唯一の例外として片頭痛(1,235.0 vs.920.9、1.11、1.02~1.22)で関連が認められた。 SCRI分析による2次解析では、片頭痛(補正後相対リスク:0.67、95%CI:0.58~0.78)を含め、HPVワクチン接種と重篤な有害事象には関連がないことが確かめられた。 フォローアップ期間の違いやHPVワクチンの種類別でも、結果の頑健性は高かった。また、2価ワクチン接種者では、片頭痛の有意な増加はみられなかった(補正後RR:1.07、0.96~1.20)が、4価ワクチン接種者では非接種者に比べ片頭痛が有意に増加していた(1.13、1.03~1.24)。 著者は、「これらの結果は、西欧の集団でHPVワクチン接種の安全性を示した試験と一致する」とまとめ、「片頭痛に関する矛盾した知見については、その病態生理と関心対象の集団を考慮して慎重に解釈すべきである」と指摘している。

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COVID-19、重症患者で皮膚粘膜疾患が顕著

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)入院患者の皮膚症状に関する報告が寄せられた。これまで皮膚粘膜疾患とCOVID-19の臨床経過との関連についての情報は限定的であったが、米国・Donald and Barbara Zucker School of Medicine at Hofstra/NorthwellのSergey Rekhtman氏らが、COVID-19入院成人患者296例における発疹症状と関連する臨床経過との関連を調べた結果、同患者で明らかな皮膚粘膜疾患のパターンが認められ、皮膚粘膜疾患があるとより重症の臨床経過をたどる可能性が示されたという。Journal of the American Academy of Dermatology誌オンライン版2020年12月24日号掲載の報告。COVID-19入院成人患者296例のうち35例が少なくとも1つの疾患関連の発疹 研究グループは2020年5月11日~6月15日に、HMO組織Northwell Health傘下の2つの3次医療機能病院で前向きコホート研究を行い、COVID-19入院成人患者における、皮膚粘膜疾患の有病率を推算し、形態学的パターンを特徴付け、臨床経過との関連を描出した。ただし本検討では、皮膚生検は行われていない。 COVID-19入院成人患者の発疹症状と臨床経過との関連を調べた主な結果は以下のとおり。・COVID-19入院成人患者296例のうち、35例(11.8%)が少なくとも1つの疾患関連の発疹を呈した。・形態学的パターンとして、潰瘍(13/35例、37.1%)、紫斑(9/35例、25.7%)、壊死(5/35例、14.3%)、非特異的紅斑(4/35例、11.4%)、麻疹様発疹(4/35例、11.4%)、紫斑様病変(4/35例、11.4%)、小水疱(1/35例、2.9%)などが認められた。・解剖学的部位特異性も認められ、潰瘍(13例)は顔・口唇または舌に、紫斑病変(9例)は四肢に、壊死(5例)は爪先に認められた。・皮膚粘膜症状を有する患者は有さない患者と比較して、人工呼吸器使用(61% vs.30%)、昇圧薬使用(77% vs.33%)、透析導入(31% vs.9%)、血栓症あり(17% vs.11%)、院内死亡(34% vs.12%)において、より割合が高かった。・皮膚粘膜疾患を有する患者は、人工呼吸器使用率が有意に高率であった(補正後有病率比[PR]:1.98、95%信頼区間[CI]:1.37~2.86、p<0.001)。・その他のアウトカムに関する差異は、共変量補正後は減弱し、統計的有意性は認められなかった。

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